羅針盤

こんにちは!株式会社羅針盤の東海林(@shojiryokun)です。

前回は、我が国のDMO制度の概要や、我が国のDMOに期待されている役割、そして我が国のDMOが抱えている課題と課題解決に向けた考え方についてご紹介しました。

今回は、我が国のDMO制度の元となった海外DMOの動向について、観光庁が2023年3月に公表した「世界的な観光地域づくり法人(DMO)の評価基準(案)を作成するための海外先進事例調査」の報告書や、2024年3月に公表した「世界的な観光地域づくり法人(DMO)のあり方検討及びガイドラインの見直しに関わる調査」の報告書を基にご紹介します。

まず最初に、各国のDMOの特徴について、主要な項目別に見ていきましょう。

出典:観光庁「世界的な観光地域づくり法人(DMO)の評価基準(案)を作成するための海外先進事例調査」https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001627872.pdf

【DMOの階層】

【法的位置づけ】

【制度的位置づけ】

【組織形態】

【役割分担】

 

組織形態によって、海外DMOの特性や財源は異なる

ここまで見てきたように、一口に海外DMOといっても組織の成り立ちや組織形態等が大きく異なるため、当然ながらそれによって、特性や財源も異なります。

ここでは、「世界的な観光地域づくり法人(DMO)の評価基準(案)を作成するための海外先進事例調査」の報告書を参考に、DMOの活動が盛んな主要国に絞って、DMOの特性を学んでいきましょう。

なお、本記事にて紹介する米国とフランスにはそれぞれ国レベルのDMO(日本におけるJNTOに相当)も存在しますが、今回は割愛しています。

【米国のDMO】

米国のDMOは、米国という地方主権の考え方が浸透している性質上、地域によって特性はまちまちなものの、有力なDMOの特性は類似しています。

ここでは、DMOが活躍しているエリアとして代表的なカリフォルニア州にフォーカスを当てて紹介します。

  1. 1.地方(州)レベルのDMO
    地方レベルのDMOの中でも好事例としてよく取り上げられるのが、カリフォルニア州を活動エリアとする「ビジット・カリフォルニア(以下、VC)」です。
    米国の地方レベルのDMOは各州法に基づいて設立されており、VCはカリフォルニア州法に基づいて設立された民間非営利組織となっています。
    VCの財源は約55%が州からの補助金であり、残りがレンタカー・宿泊施設・小売業や飲食業等の観光関連業界からの拠出金となっています。VCは州法に基づく「観光賦課金プログラム」を導入しており、旅行者の旅行支出から恩恵を得ているすべての企業から資金供給することができるため、それらが拠出金となっています。
    こうした財源を活用し、VCでは、カリフォルニア州のブランド構築や国内外へのプロモーションを行うことが役割とされています。
    参考:ビジット・カリフォルニアWebサイト
  2.  
  3. 2.地域(群・市町村)レベルのDMO
    カリフォルニア州の地域レベルのDMOとして、サンフランシスコ市を活動エリアとする「サンフランシスコ・トラベル(以下、SFT)」を紹介します。
    米国の地域レベルのDMOは、各州の憲法・法令などにおいて定められた地方自治体設置の規定(各州によって規定内容が異なる)に基づいて設置されており、SFTは民間の非営利組織の形態を取っています。
    特にカリフォルニア州の地域DMOの特徴として、観光産業改善地区(TID)を積極的に活用していることが挙げられます。TIDとは、特定の地区においてDMOの活動により受益を受ける観光関連事業者の売上の一部を負担金として地域の観光振興財源に充てる制度です。
    SFTの財源は約68%がTID負担金、約23%は民間部門からの収益(会費、広告費、ECサイト利用手数料、プログラム収益)となっており、残りはサンフランシスコ市からの芸術助成金やサンフランシスコ国際空港との契約金となっています。
    こうした財源を活用し、SFTは北カリフォルニアの玄関口としてのサンフランシスコのプロモーションを実施しています。
    参考:サンフランシスコ・トラベルWebサイト

 

概観したとおり、米国のDMOの大まかな特徴として、主たるDMOの組織形態が民間非営利組織であるとともに、DMOの活動によってメリットを受ける観光関連事業者からの負担金が財源の中核を占めている受益者負担の原則に基づく考え方が浸透していることが挙げられます。

また、活動内容がマーケティング(特にプロモーション)に寄っており、より民間企業的な活動が主軸となっている点も特徴的です。

【フランスのDMO】

欧州DMOは、国によってDMOの特性や財源構成の傾向が異なるため、ここでは行政区分の考え方が非常に日本と類似しているフランスのDMOについて紹介します。

フランスのDMOは国または地方の法律(法典)に基づいて設置されており、行政と密接に連携しています。

    1. 1.広域地方(地方圏)レベルのDMO
      我が国の広域連携DMOに類する規模の組織として、フランスでは地域圏観光局(以下、CRT)があります。CRTの主な役割は、国の観光法典において「国内外向けのプロモーション、マーケティング調査、地域の観光・レジャー開発計画の策定、宿泊施設の支援」と定義されています。
      CRTの主な財源は地方圏政府からの補助金です。
      CRTの中でも代表的なDMOであるプロヴァンス=アルプ=コートダジュール地域圏観光局では、こうした財源を活用して県や市町村の観光局と連携して観光地のプロモーションを担っており、具体的にはプロモーションに関わるプレイヤー間の各種ネットワークの構築や、旅行関係者との協働プロモーション、地方空港と連携したアクセス性向上等の施策を実施しています。
      参考:プロヴァンス=アルプ=コートダジュール地域圏観光局Webサイト
    2.  
    3. 2.地方(県)レベルのDMO
      我が国の地域連携DMOの中でも特に県域DMOに類する規模の組織として、フランスでは県観光局(以下、CDT)があります。CDTの主な役割は、国の観光法典において「観光商品の開発、プロモーション、マーケティング」と定義されています。
      CDTの財源は、「国・地域圏・県・市町村及び関係団体からの補助金及び寄付金、ステークホルダー及び個人からの拠出金、観光サービスの販売収入」等があります。
      CDTとして代表的なDMOであるロゼール県観光局では、CRTや市町村観光局と連携して観光地のプロモーションを担っています。
      参考:ロゼール県観光局Webサイト
    4.  
    5. 3.地域(市町村)レベルのDMO
      市町村観光局は、「観光客の受入れや案内、CRTやCDTと連携した国内プロモーション」が役割となっています。また、地域の観光政策の策定と、全部又は一部の施策の実施を担当します。
      市町村観光局の財源は、「市町村からの補助金、観光サービスの販売収入、観光関連税」等があります。
      市町村観光局として代表的なDMOであるパリ市観光局では、観光関係者と連携してパリのレジャーやビジネス慣行をツアー化した上でプロモーションを実施したり、パリ市議会・商工会議所と連携して国際会議開催支援を実施しています。
      参考:パリ市観光局Webサイト

 

海外DMOの事例に学ぶ際は、成功要因を深く分析することが重要

ここまで見てきたように、海外のDMOはそれぞれ法的・制度的な根拠や成り立ちが異なっており、それに伴って組織形態や、DMOの地域区分別の役割分担、財源構成が異なります。

我が国のDMOが取組を進める上で、先進的な海外DMOの取組を参考にすることがよくありますが、その際は海外DMOの背景情報を踏まえ、深い部分まで成功要因を分析することが重要です。

組織形態や財源構成等の前提条件が異なるのに、取組をそのまま真似したとしても、上手くいくことはありません。大事なのは、「そうした取組がなぜ上手くいっているのか」という点に着目し、その背景にある要因を深く分析することなのです。

そしてその上で、我が国においては参考にした取組をどのように実施すれば効果的なのかを把握した上で、実行に移していくことが求められるでしょう。

筆者としては、我が国と地域区分の切り分け方が類似しているフランスは比較的参考にしやすいものの、法的・制度的背景が異なる米国を参考にする際は、特にそうした差異に留意する必要があると考えています。

一方で、欧米DMOに共通している優れた点は確かに存在します。

高橋(2017)は、欧米DMOのマネジメント特性に着目し、以下の点が重要であると述べられています。

【欧米DMOのマネジメント特性として優れている点】

    1. 1.意思決定機関が存在感を発揮していること
    2. 2.行政との機能分担が明確化されていること
    3. 3.専門的なノウハウ・スキルを有するプロパー職員による運営が行われていること
    4. 4.DMOの組織内で成果に基づいた人事評価が行われていること
    5. 5.多様かつ安定的な財源を有していること
    6. 6.地域の多様なステークホルダーとの関係に緊張感があること(DMOが成果に対して責任を持つ)
    7. 7.明確かつ具体的な成果指標が存在していること

出典:高橋和夫(2017)『DMO 観光地経営のイノベーション』学芸出版社 より項目抜粋

これらの点は、我が国のDMOがまだまだ課題として抱えているものの、これから取り組んでいくべき点であるため、今後我が国でも実践が進んでいくことが期待されます。

 

海外DMOの取組をヒントにしつつも、地域の実情に沿った取組を検討しよう

我が国のDMOが効果的に取組を進めていく上では、我が国のDMOを取り巻く法的・制度的な背景や財源構成を踏まえた対応方針を考えていくことが重要です。

その際、海外DMOの取組をヒントにすることは有効ですが、背景の違いが大きいことから、海外DMOの取組をそのまま取り入れてもほぼ確実に失敗すると考えられます。

海外DMOの取組をヒントにして取組を進める際に重要なのは、背景情報も含めて分析を行い、海外DMOの取組の成功要因が何なのかという点を深く理解することです。

海外DMOからヒントを得て地域での取組を行おうとしたが躓いてしまったという地域においては、成功要因の分析を含め、真に地域のためになる対応を、ともに検討させていただければ嬉しく思います。

下記フォームより、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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