はじめまして!株式会社羅針盤の東海林(@shojiryokun)です。
これまで県庁職員として、観光地経営や観光デジタルマーケティングの実務を推進した後、コンサルティング会社観光チームのコンサルタントとして政策面・現場面の両面から、多くの地域の観光地経営・観光地域マーケティング支援を行ってきました。
また、前職のコンサルティング会社時代には、観光庁の委託事業を受託し、「観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック」「観光地域づくり法人(DMO)による観光地経営ガイドブック」という2種類のガイドブックを執筆担当者を担いました。
参考:観光庁「観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001580600.pdf
参考:観光庁「観光地域づくり法人(DMO)による観光地経営ガイドブック」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001736793.pdf
ここ約10年の間、観光庁は我が国の観光地域づくりを高度化するため、観光地域づくり法人(DMO)という組織の育成を進めていく方針を掲げ、その方針に基づいて各種の支援政策を行っています。
このように、観光・インバウンド業界では観光地域づくり法人(DMO)という組織の呼称をよく耳にしますが、観光地域づくり法人(DMO)とは一体、どのような目的のもと、どのような役割を担っている組織なのでしょうか。
観光地域づくり法人(DMO)とは、観光庁が「観光地域づくりの司令塔」と位置づける“日本版”のDMOです。
“日本版”とつく理由は、もともとDMOは海外の観光地域づくり法人を指す言葉であり、制度輸入によって我が国に導入された組織制度であるためです。
我が国では、観光地域づくり法人(DMO)が、観光地の司令塔としての役割をいかに果たしていくかという方針を申請書にまとめ、観光庁に申請を行い、それに基づいて観光庁が登録を行うという制度が導入されています。
なお、DMOというのは「Destination Management/Marketing Organization」の略で、地域の関係者を巻き込みながら、旅行者・地域住民の双方にとっての好影響を実現し、「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを推進する主体であると、観光庁は定義しています。
出典:観光庁「観光地域づくり法人(DMO)の形成・確立」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/dmo/dmotoha.html
※本記事では以降、日本版DMOのことを「DMO」と表記しています。
DMOには、観光地が目指すべき姿を描き、それに向けて地域一体となった取組を進めていくための司令塔としての役割が期待されています。
コロナ禍が明けてインバウンド需要が回復し、多くのインバウンド客が我が国を訪れる中、ただいたずらに誘客を行ってきた結果、オーバーツーリズムによる地域住民の不満等にも繋がっている地域も出てきています。
このような“観光地における負の影響”を回避しながら、旅行者・地域住民の双方が観光によって持続的な好影響を受けられるように地域経営を行っていくことが、DMOには求められています。
ここからは、より具体的にDMOの役割を見ていきましょう。
観光庁によると、DMOには下記の5つの役割が期待されています(DMOとしての登録要件の5項目)。
なお、この登録要件は令和6年7月5日に開催された「第4回観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」の公表資料や、「先駆的DMO募集に係る申請書」において提示された新たな要件の素案であり、今後変更が生じ得る点には注意が必要です。
【DMOに期待される5つの役割】
出典:観光庁「観光地域づくり法人の機能強化に関する有識者会議」https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/dmo/kaigi.html
出典:観光庁 「令和6年度『先駆的DMO』の募集を開始します」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/kobo04_00010.html
こうした要件を見ると、DMOが「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを推進していくために、地域の戦略の策定から商品造成・人材育成等の事業実施、様々な関係者との連携等、非常に幅広い役割を期待されていることがわかります。
では、実態としてDMOは、こうした役割をきちんと果たすことができる状況にあるのでしょうか。
観光庁が実施した調査によると、我が国の登録DMOの約8割が「人材の確保・育成」や「予算・財源」が課題になっていると回答しており、役割を果たす上で人材や予算等の運営リソースが不足している状況となっています。
出典:観光庁 「観光地域づくり法人の現状及び課題」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001720142.pdf
我が国のDMOの多くは、従来より各地域で観光協会として活動を行ってきた一般社団法人や公益社団法人、公益財団法人が占めており、数人規模の事務局体制で運営されているDMOも珍しくありません。
こうした観光協会が発展改組したDMOには、地域のおもてなし事業やおまつり等のイベント事業を行ってきたDMOも多く、そうした事業で人手が手一杯となっているケースも多く見られます。
予算についても、大部分が自治体からの補助金や負担金によって賄われている場合が多く、DMOの裁量で自由に活用できる予算はほとんどない、というDMOも散見されるように思えます。
加えて、約6割のDMOが、「マーケティング・DX」、「インバウンド関連」といった課題を挙げています。
これらの課題は、ノウハウの不足に起因するものであり、DMO自らでマーケティングや業務DXを進めていくノウハウを持っていなかったり、インバウンド誘客を進めていくための専門性を持った人材が不足しているというのが実態です。
リソース不足とノウハウ不足の問題は大きく関連しており、「業務量に対して人が不足しているためDMO職員がノウハウ習得や自己研鑽に取り組む時間がない」「予算もないため新たに専門性を持つ人材も雇えない」というのが、一般的によく見られる状況です。
私自身も、冒頭で紹介した2種類のガイドブックの執筆や現地でのDMO支援を通して、観光地が抱える理想と現実とのギャップを多く見てきています。
では、こうした課題に対して、実効的に機能しているDMOでは、どのように対応しているのでしょうか。
実効的に機能しているDMOの特徴として、戦略策定から施策実行、果ては地域の人材育成まで観光地経営に関わる機能を全て担う「幕の内弁当型の経営」から脱却し、地域の他のプレイヤー(行政・民間企業・旅館組合や商工会といった業界団体等)が取り組めていない機能の補完に注力しているように思います。
これは「選択と集中」の発想に基づく考え方で、観光地におけるマーケティングの考え方にも通じるものです。
観光地におけるマーケティングでは、地域の限られた経営資源で全てのタイプの旅行者を誘客することは難しいので、特に呼び込むべきターゲットを決め、ターゲットを効率的・効果的に誘客するために施策を実行します。
同様に、DMOの限られた経営資源で、観光地に求められる全ての機能を果たすことはできませんので、他の関係者がどのような機能を果たしているかを把握した上で、DMOが注力して果たすべき機能は何かを特定することが、効率的・効果的なDMO経営の鍵となります。
例として、私が以前ヒアリングを実施した一般社団法人下呂温泉観光協会では、地域の協議会の場で、各関係者がどのような取組をしているのかを共有しあった上で、DMOはマーケティング機能を果たすことに注力すると決めています。
また、一般社団法人八ヶ岳ツーリズムマネジメントでは、DMOが地域にとって新興組織であるという背景から、地元の連絡調整や合意形成をリードすることは難しいという判断を下した上で、各関係者の強みを把握し、地域にとって担い手のいなかったマーケティングや国事業への申請といった役割を担うこととしています。
上記の2団体は、こうした地域での役割分担を行う取組をリードすることで地域の中での存在感を高め、結果として今では観光地経営をリードする主体として活動しています。
【参考】下呂温泉と八ヶ岳ツーリズムマネジメントの取組
出典:観光庁「観光地域づくり法人(DMO)による観光地経営ガイドブック」P.22、P.25
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001736793.pdf
ここまでで見てきたとおり、DMOには限られた人的リソースと財源的リソースのもとで、地域が観光地経営を進めていくうえで不足する機能・役割を補完し、地域の観光地経営のあり方をデザインしていくことが非常に重要です。
まずは自地域の実情を把握し、その上でDMOが担うべき役割を特定することから着手するのが、我が国のDMOが実効的な観光地経営を展開するための第一歩と言えます。
とはいえ、どのように観光地に存在する多種多様な関係者と役割分担を行った上で合意を得ていくべきかについては、地域特性や関係者間のパワーバランスを考慮しながら進め方を考えていく必要があります。
こうした取組を進める上で、一緒に考えて手を動かして欲しい!というご要望がございましたら、お力添えできますと嬉しく思います。
下記フォームより、ぜひお気軽にお問い合わせください。