株式会社羅針盤の佐々木(@sasakifumito)です。
僕たちは、「ゲスト満足度」に拘って2014年から様々な試行錯誤を続けてきました。築地と砂町銀座商店街は僕たちの最初のフィールドでもあり、僕たちを育ててくれた場所でもあります。街を歩いていると、「前に来たガイドさんから挨拶がなかった」「お客様の邪魔にならないように伝えて欲しい」といったフィードバックを頂くこともよくありました。築地場内市場移転等も経て「観光は地域があってこそ」「ツアーは地域の魅力を借りて商売をさせていただいている」ということは身に染みて感じています。「あんた、よくまた来たねー!」とプライベートでも歓迎してもらい、ガイドの醍醐味を体感した場所でもあります。
街からも、ゲストからも、ガイドからも、そして社内のメンバーからも、様々なフィードバックを直接いただくことで今の僕たちは出来上がってきました。
そのような環境にも恵まれ、僕たちは、「3つの愛『ゲストへの愛、地域への愛、ガイド業への愛』が大事だ」という考えに至り、たまに「愛」を叫んでいます。
最近、その文字だけのスライドをあまり使っていないので、反響があれば、また使おうと(メンバーにも使ってもらおうと)思います。
事業立ち上げ時は、通訳案内士の方を見るにあたって、「(街からも受け入れられ)ゲストを満足させられるか」という河野(@yukono1017)と僕の物差しがあったのですが、社内でも関わる人数が増えていく中で、また、各地域でもガイド育成事業を進めていく中で、感覚で共有していくのにも限界があり、ガイドに求められる要素を体系化してきました。
羅針盤としては、「コミュニケーション能力」にだいぶ寄った評価を普段している認識はありますが、官公庁・地方自治体の事業等も経て、より汎用的・網羅的に整理をしてきました。
ゲストサービスとしての直接の実践、ガイド育成支援として各地域への実践、そして、各種事例・アンケート調査等を経て、他にはない実用的な整理だと考えていますし、これをベースに、ガイドの育成プランを立てていけるものと考えています。
社内で管理していたものですが、ガイドコミュニティJWGが掲げる「ガイド文化を日本に創る」を実現加速化するため、「ガイドに求められる5つの要素と20超のポイント(現時点版)」として、公開します。
とにもかくにも、ガイドに必要なのはコミュニケーション能力です。もう少し端的に言えば、「ゲストが求めているものを察知し、提供し、ゲストを楽しませる力」です。ガイドというと「知識がないといけない」と思う方も多いと思います。もちろん知識は大事。でも知識だけあってもだめ。ガイドはサービス業なのでその点はとても大事です。
ガイドの中には、一方的にずっと話している方もいますが、満足度はゲストのニーズに応えることで向上しますし、ニーズに応える上では察知することが重要です。察知する上で大事なことは「観ること」と「聴くこと」です。一方的に話していては、聴くことが出来ないだけでなく、観ることへの時間も削がれます。
着ている服、身に着けているもの、表情から仕草まで、話さなくても多くの情報をゲストは発しています。
自分が話していない時に、ゲストに背中を向けて「私についてきて」パターンのガイドも見かけますが、それではゲストの大事なサインを見落としてしまします。
もちろん会話の中にも数多くの情報が隠されています。
「説明する」ではなく、「対話をする」ことを心がけ、相手のニーズをつかみましょう。「時は金なり」。良かれと思って話していることが相手の貴重な時間を無駄遣いしているかもしれないという意識を持ちましょう。
いわゆる「ロジカルシンキング」とよばれるスキルですが、理路整然と話すことというより、大事なことは「論点を掴むこと」と「端的にわかりやすく説明できること」です。
ゲストが何を欲しているのか(=論点)を把握することをしないとゲストのニーズには応えられないですし、限られた時間の中で分かりやすく伝える力は必須です。
分かりやすく説明できればいいのか、というとガイドはゲストを楽しませる必要があります。同じ話をしても、笑いを取れる人もいれば、静まり返る人もいます。どのような順番で話をするか、どう間をとるか、ストーリーの構成を考える力もガイドには求められます。
言いたいことと言いたい順番が分かったとして、どういう表現を選ぶかもガイドのスキルが試されます。異国の地日本のことをわかりやすく伝えるためには、相手にとってわかりやすい具体例を用いたりする言語化力が必要になります。
コミュニケーションとは双方向的なものです。信頼を構築しないと、伝えたいことが相手に伝わらないケースもあります。「お互いに名前を呼び合う」といった基本的なことからはじまり、距離を縮めていく対話力もガイドには不可欠です。
海外の人とコミュニケーションするという点ではもちろん語学力も必要です。一定の観光レベルであれば、流ちょうである必要はありませんが、ちゃんと伝わるスピード・表現で話すことは求められます。
最後に、コミュニケーション能力で大事なのは、ノンバーバルコミュニケーションスキルです。
メラビアンの法則は、研修で頻繁に取り上げさせていただきますが、言葉をいくら発していても、人は視覚や聴覚からも情報を多く得ます。
ついつい、知識=言語で表現する内容を学びがちですが、もっと非言語能力に目を向けてみてはいかがでしょうか。
顔やしぐさでどう語るか。声のトーンでどう緩急をつけるか。
そうした表現力はゲストの満足度を非常に高めます。
ガイドを仕事としていく上では、コミュニケーション能力が最重要ですが、お金を貰って仕事をする上で、サービス業としての矜持も求められます。
いくらコミュ力が高くても、スタンスが不十分であれば仕事にはできません。
ここではあえて「プロフェッショナリズム」について掘り下げませんが、ガイドとして当たり前のことを当たり前にやること、相手の期待値を常に超える努力をする姿勢は、活動していく上で不可欠です。第一線で活躍するガイドの方々の、準備の姿勢等を見るときに、よくプロフェッショナリズムを感じます。
ガイドは決して「教える仕事」ではなく「サービス業」です。そうした際に、相手が何を求めているかを察してそれに応えようとするホスピタリティは不可欠です。日本だとルールがあるとそれに従ったり、自分の先入観で「無理なものは無理」と考えがちですが、「どうすれば実現できるのか」という姿勢で柔軟に考えることが求められます。
多様性を認めることは、近年国内でも求められるようになりましたが、国を超えればその多様性はさらに広がります。国籍の違い、宗教の違い、文化の違い、嗜好の違い。相手と違うことはよくありますが、そうしたときに相手のことを認め、興味を持つところから相互理解は進みます。
知識がないと話にならない部分はありますが、知識があれば十分かというとそうでは全然ないので3番目に知識を持ってきました。
最初からすべてを完璧に覚えて答えることは難しいので、一つ一つ楽しんで学びながら、経験を通じて更に膨らませていきましょう。
細かく分けだすときりがないので、一つのくくりを「観光知識」とおきました。
目的地において、どこにトイレがあって、どこに喫煙所があるか、どう歩くとよくて、どこは車いすだと難しいか。そうした目的地情報に始まり、地理や歴史、建築や音楽まで、幅広くその場所その場所で知識が求められます。
まずは鉄板な知識から押さえていきましょう。
「観光知識」と重複する部分も多々ありますが、目的地情報や歴史・地理といった観光情報とは別に、ガイドには高い一般教養が求められます。
「今の日本の平均年収は?」「一家族が住むのにかかる平均的な家賃は?」といった話に始まり、社会保障や経済、国際社会の問題まで話題は多岐にわたります。
食事制限等含め宗教的な理解も必要ですし、「グルテンフリー」と言われたときに、何にグルテンが入っているのかを知っておく必要も出てきます。
また、江戸時代を相手の国では「○○があった時代」と伝えてあげたほうが分かりやすかったりと、世界の歴史や地理もあるに越したことはありません。
大変ではありますが、スキルを身に付ければ身に付ける分だけ、ゲストに貢献できる、とても奥の深い仕事です。
ゲストを満足させるという点では、コミュニケーションスキル・スタンス・知識があればやっていける面も多いですが、実際に仕事を獲得して生業としていくためには実務面でのスキルも欠かせません。「資格を取れば仕事がある」わけではないので、こうした実務スキルも磨いていきましょう。
ガイドのスタイルにもよりますが、公共交通機関で1日動く場合、大体2万歩は歩くことになります。
桜のシーズンは休みなく毎日稼働しているガイドさんも大勢いますし、途中で喉がつぶれて声が出なくなるケースもあります。気力・体力はガイドに欠かせない基礎スキルです。
「旅程管理主任者」とは、バスガイドが必ず取得必須な資格ですが、ガイドにとって旅程管理も欠かせないスキルです。行きたい場所にちゃんと連れて行ってあげることができるか、時間内に回ることが出来るかは、ガイドの腕の見せ所です。
また、ゲストからの要望に基づいて、旅程を提案できるようになるとよりゲストに楽しい時間を届けることが出来ます。
あたりまえですが、大事なことです。あたりまえですが、知らないところで破ってしまう可能性もあるので、関連法制の理解とそれに基づいた行動が求められます。
焦っていてもバスの運転手の方に無理をさせると道路交通法違反に加担したような形になることもありますし、注意が必要です。
ガイドの仕事としてゲストを楽しませることはもちろん必要ですが、まず第一は、ゲストの安全を確保することです。
都内を歩いていてもなるべく車道側を歩かせない、といった心がけから、アドベンチャーツーリズムでは、状況を判断して無理をさせないことが求められます。
必要に応じて、救命救急の資格等も取っておくと安心でしょう。
社会人経験が長い方は何をいまさらと思われるかもしれませんが、基礎ビジネススキルもガイドに不可欠ですし、出来ていない方を見かけるのも現実です。
メール一つとってもちゃんとビジネスマナーにのっとったメールを送ることが出来るか、請求書一つとってもちゃんと期日までに正しく送れているか。
そうした基本がなっていないと、仕事をお願いされなくなってしまいます。
基礎的なOAスキルも大事ですが、これからのご時世ガイドも新しいものを取り上げていくスキルも必要です。
ゲストから写真撮影を頼まれたときに、撮り方が分からない、では困りますし、知らない場所を尋ねられた際に、道が分からない、では困ります。
カメラ、スマートフォン等の仕様はもちろんのこと、生成AIを活用してみたりとか、最新の技術についていくことも大事です。
日本に来るゲストは、好奇心旺盛な方も多くいらっしゃり、同じ目線で会話できることが求めれれます。
通訳案内士法改正前は、資格を持っていることが仕事に繋がったかもしれませんが、これからは個人として仕事を獲得していく必要があります。
また、単価にしても、言われた価格で引き受けるだけでなく、どうすれば引き上げていけるか、その際にどう交渉していくのが良いか、といった局面と向き合うことも増えてくるでしょう。
今後そうした営業力・交渉力・セルフブランディングがうまい人がより活躍できる環境になっていくものと感じています。
SNSを活用して、マイクロインフルエンサー化してきているガイドが誕生しているのはいい流れです。
さて、最後にお伝えしたい要素はネットワーキングです。
ガイドという仕事は一人ではできません。観光という仕事自体が、地域の魅力をお借りして活動させて頂いているという側面もあります。
ネットワークは他の要素に比べると、絶対必要な要素ではないかもしれませんが、是非楽しく業務をしていく上で大事にしてほしい要素です。
「ネットワーキング」という強い絆でなくてもよいかもしれませんが、地域への配慮はガイドとして活動していく上では欠かせません。
一般のお客様の邪魔にならないようにする、挨拶をしっかりする、そうした基本が大事になってきます。
加えて、更に地域からウェルカムに迎えて頂けるようになるとゲストの満足度向上に繋がることは間違いありません。
一方で、「挨拶がない」「ガイドは来ないでほしい」という声が聞こえ始めているのも事実で、この現実には真摯に向き合う必要があります。
ゲストサービスを提供していく上では様々な協業パートナーがいます。
飲食店もいれば、バスやハイヤーのドライバーもいます。ホテルの方々も一緒に日本滞在を創り上げる仲間です。
そうした方々とどう関係を作っていくかもガイドには必要なスキルです。
残念なことに、例えば極端ですが「ドライバーの方を『下僕』のように扱った」という話も耳にすることがあります。
いやいやいやいや、別にガイドが偉いわけではなんでもなく、一緒にゲストに最高のサービスを提供する仲間です。
スタンスにも通じますが、一つ一つ協業パートナーとの関係性構築していくことも大事なスキルです。
仕事を自分で獲得できる人は全く問題ないですが、多くの方はエージェント・DMCから仕事を得ている環境下では、エージェント・DMCとの関係構築も大事になってきます。
仕事をお願いする立場から見ると、様々なガイドの方がいます。そうした目線で見ても、エージェント・DMCとの関係構築力も大事ですし、仕事を得るため・報酬をあげるためではなく、連携を強くすることで、よりゲストに最高のサービスを提供出来ていくと感じています。
このあたりは、また追って、他のエージェント・DMCも含めて相互理解に繋がる機会を創れれば、と思います。
活動していく上で欠かせないのはガイド同士のネットワーキングです。
孤高のガイドでいることも否定はしませんが、ガイドとの望ましいネットワーキングがあることは、プラスしかないと思います。
最新の観光情報を仲間から仕入れていくこともできますし、悩みを共有できるということもあれば、特に初期においては、仕事の機会をガイド仲間から貰ったという声も多く聞きます。
「信頼されているエージェントから依頼があった際に先約があり、ガイド仲間を紹介した」というような流れです。
ただ、ガイドの方と繋がればいい、というわけではないですが、自分に合うガイドネットワークはとてもガイド人生を豊かにします。
これが、これまでの中で一番優先度が低い要素です。
ただ、最後に、営業的に宣伝をさせていただくと、必要なスキルについての情報を受動的に供給してくれるのは、ガイド団体だったりします。
知識は自分でも勉強しようと思う方も多いと感じていますが、ガイドのコミュニケーション力や旅行実務は学べる機会も限定的です。
地域や協業パートナー、エージェント、ガイド同士のネットワーキングといった機会も創出してくれます。(創出していかないといけないと思っています)
そうした点では、ガイド団体との関係性を持っていくこともガイド人生に彩りを与えてくれることでしょう。
JapanWonderGuideでは与えていきたいと思っていますし、他のガイド団体の取組も色々工夫されているのでどこか覗いてみる価値はあります。
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「ガイドは人間力だ」「ガイドは総合力勝負だ」と言われるように、とても幅広い素養が求められます。それだけに一つ一つの成長を感じられますし、成長した結果、ゲストにも地域にもさらに笑顔をもたらすことのできる素敵な仕事でもあります。
自分は、何が強みだけど、何に改善が必要なのか、こちらの指針を元に自己分析いただいて、自己研鑽に繋げていただければと思います。
5つの要素をどういう順番で並べるかは正直悩みました。
「差別化しやすい」とか「ガイドを最低限はじめるには」とかだと別の並び順かもしれません。
今回は、ガイドデビューして目指しやすい「ゲストをスポットで満足させられるには」という観点の優先順位で並べました。
この投稿が、多くの地域で素敵なガイドの方々が活躍できる場が広がることの一助になれば幸いです。
(営業的なことを言えば、いつでもチーム羅針盤でサポートするのでお気軽にお声がけくださいm(_ _)m)