羅針盤

地域プロデュース事業部 COLUMN

2025年8月8日
ツアー造成・コンテンツ造成

日本遺産① 制度10年の軌跡と活用のポイント

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こんにちは、羅針盤の東海林(@shojiryokun)です。

本日は、文化庁が取り組んでいる、我が国の文化資源を活用した観光誘客施策である日本遺産制度について、触れていきたいと思います。

2015年度(平成27年度)に始まった日本遺産制度は、今年で10年目を迎えました。地域の歴史・文化資源(=構成文化財)を、“物語(=ストーリー)”として束ね、保全と活用を同時に進める――これが制度の狙いです。

かつては文化財の保全に重きが置かれていたものの、ここ10年ほどの文化財行政では、“いかに保全と活用を両立するか”という観点での取組が進められてきた中で、日本遺産はその中の一つの重要な取組として位置づけられています。

羅針盤でも、文化庁と「日本遺産オフィシャルパートナーシップ」を締結し、我が国の文化・伝統を活かした日本遺産の取り組みを支援しています。

日本遺産の認定地域は10年間で105件に達し[1]、全国各地で日本遺産を活用した取組が広がっています。歴史・文化だけでなく、地域の多様な食・自然・祭り・体験等を絡めることで、地域活性化に繋げる動きも進んでいます。

しかし、各地の成果には大きな差が生まれ、「観光客が増えビジネスが自走し始めた地域」と「認定後も停滞する地域」がはっきりしています。

より具体的に言えば、「日本遺産」の仕組みを活かして地域資源を活かしたコンテンツを造成・磨き上げ、販売に繋げて来た結果、「特別重点支援地域(日本遺産プレミアム)」や「重点支援地域」に認定されている地域もいる一方で、登録後の具体的な取組が進んでいない地域もいる状況となっています。

本稿ではその差を生んだ五つの要因を整理し、次の一手を考えるための材料を示します。

数字で見る、日本遺産のいま

日本遺産の現況を、3つの観点から見ていきましょう。

  • 認定件数:創設5年で100件を突破。その後、文化庁はブランド力の維持・強化のため、認定件数を「100件程度」とする方針を堅持[2]。
  • 国の支援予算額:令和7年度の「日本遺産活性化推進事業」予算は約6億7,700万円。近年は概ね6〜7億円規模で推移[3]。
  • 評価制度:令和3年度から総括評価と継続審査が導入され、不十分な地域には「条件付き認定」が付与される仕組みに[4]。

今後も文化庁では日本遺産のブランド力を維持するため、件数を堅持していくことが示される中、日本遺産認定地域を支援する予算の予算額も、大きく伸びることはないと考えられます。

そのような状況下で、これまでにしっかりと取組を積み重ねてきた地域が予算を獲得して取組を進化させていっている一方で、取組が進んでこなかった地域では経験値が溜まっていないために予算獲得や取組が進まず「条件付き認定」が付与される、といった形で二極化が進んでおり、今後、認定地域間の差はますます開いていく可能性があります。

今の段階であらためて自地域の取組の進捗を確認し、資源や予算をどう活かしていくべきかが勝負の分かれ目となってきます。

成功・失敗を分けた5つの要因

日本遺産認定地域の中で、取組が進んできた地域、進んでこなかった地域の成否を分けた要因は、大きく5つあると考えています。

① 地域の運営体制

市町村等の行政のみで抱え込まず、観光協会・DMOや地域の民間事業者を巻き込んだ協議会を活かしながらも、地域の意思決定が速い地域が成果を発揮しています。一方で、地域内の役割分担が曖昧な地域では、意思決定を担う主体が誰なのかも曖昧となり、事業が停滞してしまう傾向にあります。

② ストーリーの磨き込み

認定時点の日本遺産ストーリーを基に、季節や世代に合わせて「語り口」をアレンジしているかどうか。観光客が「自分ごと」として共感できる魅力的な表現になっているか。こうした観点を踏まえ、常に日本遺産ストーリーをアップデートし続けた地域は、誘客を着実に実施し、旅行者を獲得しています。また、そもそも地域の日本遺産ストーリーが刺さるターゲットは誰か?を絞り込むことも非常に重要です。

③ 周遊経路づくり

文化財が点在する場合、徒歩・二次交通・サイクリングなど複数の移動手段を組み合わせ、一筆書きで巡れる動線を描いているか。また、一連のストーリーを味わうことのできるツアー商品として仕立てられているか。ストーリーが魅力的でも、動線設計が弱いと旅行者にとっては具体的にどのように地域を巡ればストーリーを体感できるかがわからず、滞在時間も消費額も伸びません。

④ 収益モデル

体験料、二次交通、ガイド料、クラウドファンディングなど複数の収益獲得方策を組み合わせ、事業費を持続的に確保するための仕組みを持てるか。文化庁事業に採択された年のみ事業を実施するなど、補助金のみに依存すると、地域で持続的に事業を続けていくことができません。

⑤ 情報発信力

公式サイトとSNSをセットにし、写真・動画による発信を継続的に行いながらも、ユーザー投稿(UGC)を誘発する仕組みを作れているか。ユーザーが誰でもSNS上で発信できる現代において、地域による情報発信が年に数回だけでは発信が埋もれてしまいます。情報をどれもこれも幅広く発信するのではなく、まずはここを!というおすすめスポットから発信するといった方法も有効です。

ポイント:5つの要因は、それぞれ単独ではなかなか機能しません。運営体制を軸に、ストーリー→周遊経路→収益モデル構築→情報発信を“歯車”のように噛み合わせて回していくことが必要です。

地域の現状を知ろう

地域の現状を判断するための簡単なチェックリストを用意しました。以下の5問は大まかな判断基準ですが、Yesが3つ未満なら、次回以降の記事で紹介する具体策を早めに検討しましょう。

#

設問

Yes

No

1

協議会等による地域内の協議が月次程度で開かれている

2

ターゲットを見直しながら、ストーリー解説を年1回以上更新したり、拡充している

3

主要スポットを一筆書きで巡る周遊ルートを案内している

4

安定的に体験プログラムの収益を得られている

5

公式SNSやWebサイトを月2回以上更新している

 

まとめ

自己診断で課題が見えたら、「何から手を付けるか」を決めることから始めましょう。次回は地域資源を市場につなぐ、「①文化資源」「②体験プログラム」「③販路・流通」「④情報発信」の“4つの階層”を整理し、優先順位をつける方法を解説します。

地域の課題を踏まえた個別相談も承っています。

下記フォームより、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

 

参考・出典

[1] 文化庁「令和7年度『日本遺産(Japan Heritage)』認定地域一覧」(参照2025年8月5日)
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/aboutsite/images/contactlist.pdf
[2]文化庁 「令和7年度における日本遺産の総括評価・継続審査の結果及び 候補地域の日本遺産への認定審査結果を発表します」(参照2025年8月5日)
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/94251901_01.pdf
[3] 文化庁 「令和7年度 予算(案)の概要」(参照2025年8月5日)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/yosan/pdf/94162301_01.pdf
[4] 文化庁 「今後の総括評価・継続審査の進め方等について」(参照2025年8月5日)
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/93805302_02.pdf

 

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